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6. Ⓜをを公差付き形体に適用する場合の例
6.1 軸線の真直度公差
(a)図面指示
(b)機能上の要求事項 公差付き形体は、次の要求事項を満たさなければならない。
― 形体の個々の局部実寸法は、0.2の寸法公差内になければならず、したがって、
Φ12とΦ11.8との間を変動してもよい。
― 公差付き形体は、実効状態、すなわち、Φ12.4(=Φ12+Φ0.4)の完全形状の包
絡円筒内になければならない[図14(b)及び図14(c)参照]。
したがって、軸線は、形体のすべての直径が最大実体寸法Φ12であるときには、
Φ0.4の真直度交差の公差域内になければならないが[図14(b)参照]、形体のすべ
ての寸法が最小実体寸法Φ11.8であるときには、Φ0.6の公差域内で変動してもよい
[図14(c)参照]。
備考1. 図14(b)及び図14(c)は、形体の寸法の極限の場合を説明してい
る。実際には、形体は異なった局部実寸法をもち、極限状態の間のどこ
かにある。
2. この指示[図14(a)参照]は、直径公差が大きくて、包絡の条件が
適用できない場合に適している。例えば、ボルトの場合である。
6.2 データム平面に関連する軸の平行度公差
(a) 図面指示
(b) 機能上の要求事項 公差付き形体は、次の要求事項を満たさなければならな
い。
― 形体の個々の局部実寸法は、0.1の公差内になければならず、したがってΦ6.5と
Φ6.4との間を変動してもよい。
― 全体の形体は、Φ6.5の完全形状の包絡円筒の境界内になければならない。
― 公差付き形体は、データム平面Aに平行で、6.56(=6.5+0.06)離れた2平行
平面によって設定された実効状態内になければならない[図15(b)及び図15
(c)参照]。
したがって、形体のすべての直径がΦ6.5の最大実体寸法であるときには[図15
(b)参照]、軸線はデータム平面Aに平行で、0.06離れた2平行平面の間になけれ
ばならないが、形体のすべての直径がΦ6.4の最小実体寸法であるときには、軸線は
0.16(2平行平面の間の距離)までの公差域内で変動してもよい[図15(c)参
照]。
備考1. データム平面に対する軸線の平行度公差の場合には、公差域は2平行平
面の間で、円筒公差域ではない領域になければならない。
2. 平行度公差の公差域が2平行平面の間の領域にある時には、実効状態は
2平行平面の間の領域である。それらの間の距離は、最大実体寸法6.5と
平行度公差0.06との和、すなわち、6.56である。
Ⓔが指示されたときには、最大実体寸法における完全円筒の状態は、
別に検査されなければならない。
3. 図15(b)及び図15(c)は、形体が理論的に正確な形状を示したもの
であり、実際には、形体は異なった局部寸法をもつ極限の状態の間のど
こかにある。
6.3 データム平面に関連する穴の直角度公差
(a) 図面指示
(b) 機能上の要求事項 公差付き形体は、次の要求事項を満たさなければならな
い。
― 形体の個々の局部実寸法は、0.13の寸法公差内になければなれず、したがって、
Φ50とΦ50.13との間を変動してもよい。
― 公差付き形体は、実効状態の境界外、すなわち、データム平面Aに直角で、
Φ49.92(=Φ50-Φ0.08)の完全形状の内接円筒外になければならない[図16
(b)及び図16(c)参照]。
したがって、形体のすべての直径がΦ50の最大実体寸法であるときには、軸線はデー
タム平面Aに直角で、Φ0.08の公差内になければならないが[図16(b)参照]、形
体のすべての直径がΦ50.13の最小実体寸法であるときには、Φ0.21までの公差域内で
変動してもよい[図16(c)参照]。
備考 図16(b)及び図16(c)は、形体が理論的に正確な形状にある場合を示
したものであり、実際には、形体は異なった局部寸法を持つ極限の状態の
間のどこかにある。
6.4 データム平面に関連する溝の傾斜度公差
(a) 図面指示
(b) 機能上の要求事項 公差付き形体は、次の要求事項を満たさなければならな
い。
ー 形体の個々の局部実寸法は、0.16の寸法公差内になければなれず、したがって、
6.32と6.48との間を変動してもよい。
― 公差付き形体は、データム平面Aに対して45°の指定した角度で、6.19(=6.32-
0.13)離れた2平行平面によって設定された実効状態の境界外になければならな
い[図17(b)及び図17(c)参照]。
したがって、形体の中心平面は、形体のすべての幅が6.32の最大実体寸法であるとき
には、データム平面Aに対して45°の指定した角度で傾斜し、0.13だけ離れた2平行平面
の間になければならない[図17(b)参照]。形体の中心平面は、形体のすべての幅が
6.48の最小実体寸法であるときには、0.29までの公差域内で変動してもよい[図17
(c)参照]。
備考 図17(b)及び図17(c)は、形体が理論的に正確な形状にある場合を
示したものであり、実際には、形体は異なった局部実寸法をもつ極限の
状態の間のどこかにある。
6.5 互いに関連する四つの穴の位置度公差
(a) 図面指示
(b)機能上の要求事項 公差付き形体は、次の要求事項を満たさなければならな
い。
ー 形体の個々の局部実寸法は、Φ0.1の寸法公差内になければなれず、したがって、
Φ8.1とΦ8.2との間を変動してもよい。
ー すべての公差付き形体は、それぞれが他の円筒(正確に90°に配置された形
体、間隔32で)に対して、理論的に正確な位置にある場合に、Φ8(=Φ8.1-
Φ0.1)の完全形状の内接円筒の境界外になければならない[図18(a)参照]。
したがって、形体の軸線は、形体のそれぞれの直径がΦ8.1の最大実体寸法であるとき
には、Φ0.1の位置度公差の公差域内になければならないが[図18(b)参照]、形体の
それぞれの直径がΦ8.2の最小実体寸法であるときには、Φ0.2までの位置度公差の公差内
で変動してもよい[図18(c)参照]。
備考 図18(b)及び図18(c)は、形体が理論的に正確な形状にある場合を示
したものであり、実際には、形体は異なった局部実寸法をもつ極限の状態
の間のどこかにある。
動的公差線図(図19参照)は、表1に示すように形体の寸法と理論的に正確な位置か
らの許容偏差との間の相互関係を示している。
図20は、実効状態を表す機能ゲージを示す。
参考 機能ゲージの制作公差は、含まれていない。
7. ゼロ幾何公差方式
7.1 一般 5.1及び6.5に示す例では、公差は寸法と位置とに配分されている。特
別の場合として、寸法に対する全公差を割り当てて、ゼロ位置度公差を指示する。この
場合には、寸法公差は増加され、前述の寸法と位置公差との和になる。
したがって、図2の穴に対する図面指示は、図21(a)に示すようになり、図4のピ
ンに対する図面指示は、図21(b)に示すようになる。
図21(a)及び図21(b)の図面指示によれば、実寸法が最大許容寸法と最小許容寸
法との間を変動するときには、位置度公差はΦ0とΦ0.2との間を変動してもよい。
"0Ⓜ"の指示は、位置度公差以外の幾何公差特性に用いてもよい。
7.2 図面指示例
7.2.1 互いに関連する四つ穴
(a) 図面指示
(b) 解釈 図22の図面指示によって、実効寸法は、最大実体寸法(穴の最小径)か
ら与えられた位置度公差を差し引いたものである。すなわち、Φ8-Φ0=Φ8で
ある。
動的公差線図(図23参照)は、表2に示すように、形体寸法と理論的に正確
な位置からの許容偏差との間の関係を説明している。
図20に関する機能ゲージは、図22に示した部品の実効状態をも示す。両方の
場合とも、形体の直径は、それらの異なった寸法公差に応じて、別々に検査さ
れなければならない。
7.2.2 互いに関連する四本のピン
(a) 図面指示
(b) 解釈 図24の図面指示によって、実効寸法は、最大実体寸法(ピンの最大径)
に与えられた位置度公差を加えたものである。すなわち、Φ8+Φ0=Φ8であ
る。
動的公差線図(図25参照)は、表3に示すように、形体の寸法と理論的に正
確な位置からの許容偏差との間の関係を説明している。
図26は、実効状態を表す機能ゲージを示す。
参考 機能ゲージの制作公差は、含まれていない。
8. 公差付き形体及びデータム形体にⓂを適用する場合の例
8.1 データム穴に関連する四つの穴の位置度公差
(a)図面指示
参考 ISO 2692 では、データムAに記号Ⓔを指示している。
(b) 機能上の要求事項 公差付き形体は、次の要求事項を満たさなければならな
い。
ー 個々の形体の局部実寸法は、Φ0.1の寸法公差内になければなれず、したがって、
Φ8.1とΦ8.2との間を変動してもよい[図27(b)及び図27(c)参照。
ー すべての公差付き形体は、実効状態の境界外、すなわち、これらの円筒のそれぞ
れが他の円筒に対して理論的に正確な位置[正確に90°に、間隔32のパターンで
配置された形、図27(b)及び図27(c)参照]にあり、かつ、データムAの穴
のはまり合う寸法がΦ10の最大実体寸法であるときには[図27(b)参照]、デ
ータム軸直線に対して、理論的に正確な位置にある状態で、Φ8(=Φ8.1-Φ0.1
)の完全形状の内接円筒外になければならない。
したがって、特別な場合には、個々の形体の軸線は、直径がその最大実体寸法
Φ8.1であるときには、Φ0.1の位置度の公差域内になければならないが[図27
(b)参照]、それぞれの形体の直径がその最小実体寸法Φ8.2であるときには、
Φ0.2の公差域内で変動してもよい[図27(c)参照]。
ー データム形体Aの実際の軸線は、データム形体の最大実体寸法から離れていると
きには、四つの形体の位置の実効状態に関連して浮動してもよい。この浮動の値
は、その最大実体寸法からデータム形体のはまり合う寸法の離れた寸法分に等し
い[図27(b)及び図27(c)参照]。
したがって、特別な場合には、データム形体Aの実際の軸線は、データム形体Aが完
全形状の、最小実体寸法Φ10.2のときには、Φ0.2の公差域内を浮動してもよい[図27
(c)参照]。
参考 データム形体には、記号Ⓔを指示したものと同じであると解釈する。
位置度公差は、データム形体に関連するだけでなく、互いに関連した四つの公差付き
形体に適用する。与えられた数値は、表4の第2欄に示す離れた量に等しい量が増加さ
れる。
データム形体の寸法に依存する付加的な位置度公差は(データムについての最大実体
状態のため)、データム形体に関連するグループ公差として公差付き形体に適用する
が、互いに関連する公差付き形体には適用しない。すなわち、データムは、公差付き形
体に関連して浮動してもよい(数値については、表4参照)。
表4の第2欄及び第4欄の値のいくつかの組合せが生じる。第2欄及び第4欄の値
は、それぞれ意味が異なるので、単純に加算することはできない。特別の組み合わせの
例を表5に示す。
図26は、実効状態を表す機能ゲージを示す。
参考 機能ゲージの製作公差は、含まれていない。
8.2 同軸度公差
(a) 図面指示
参考 ISO 2692 では、データムAに記号Ⓔを指示している。
(b) 機能上の要求事項 実際の公差付き形体は、次の要求事項を満たさなければな
らない。
ー 形体の個々の局部実寸法は、0.05の寸法公差内になければなれず、したがって、
Φ12とΦ11.95との間を変動してもよい[図29(b)及び図29(c)参照]。
ー 全体の形体は、実効状態、すなわち、データム形体Aのはまり合う寸法がその最
大実体寸法であるときに、データム形体Aに同軸で、かつ、Φ12.04(=Φ12+
Φ0.04)の完全形状の包絡円筒内になければならない[図29(b)及び図29
(c)参照]。
ー データム形体Aの実際の軸線は、データム形体の最大実体寸法から離れている
と、実効状態に関連して浮動してもよい。浮動の値は、その最大実体寸法からデ
ータム形体のはまり合う寸法の離れた量に等しい[図29(d)参照]。
したがって、形体の軸線は、形体のすべての直径が最大実体寸法Φ12であるときに
は、Φ0.04の同軸度公差の公差域内になければならないが[図29(b)参照]、公差付
き形体のすべての直径がΦ11.95の最小実体寸法であり、かつ、データム形体のはまり合
う寸法がΦ25の最大実体寸法であるときには、Φ0.09までの公差域内で変動してもよい
[図29(c)参照]。データム形体Aの実際の軸線は、データム形体Aのはまり合う寸
法がΦ24.95の最小実体寸法であるときには、Φ0.05の領域の中で浮動してもよい[図29
(b)参照]。この場合には、一つの形体だけがデータムに関連しているので、データ
ムの浮動は、図29(c)に示すように、同軸度公差が増加するという効果がある。
ここに、d₁:データム形体の最大実体寸法
d₂:公差付き形体の実効寸法
t:幾何公差
⊿d₁=d₁-[データム形体のはまり合う寸法]
t+⊿d₂=d₂-[公差付き形体のはまり合う寸法]
最大の同軸度=
=
=0.19
図30は、実効状態を示す機能ゲージを示す。
参考 機能ゲージの製作公差は、含まれていない。
※ 以上がこの規格の全文である。前ページでも述べたが、この規格は設計のための規
格である。特別な場合にしか使用することはないので、理解しておく必要はあまりな
い。一般に浸透している規格とも思われない。
このような難解な規格が普及するのにどのくらいかかるであろうか。
まず規格が新たに制定されると、それに関した解説書などが出される。これに2,3年
はかかるであろうか。この解説書によって勉強した学生が社会人になるのにさらに数
年。この段階で普及し始めるかというとそうではなく、この人たちが指導的立場になら
ないと使われださない。指導的立場になるのは30代、40代であるから、トータルで、
15年、20年は見なくてはならない。
この規格、最大実体公差方式が制定されたのは1984年となっており、30年は過ぎてい
る。普及していてよいはずであるが。