JISによらない機械製図

JISの機械製図に規定されていない描き方の説明と、偏見的な解説をしています。

普通公差ー第2部:個々に公差の指示がない形体に対する幾何公差

    普通公差-第2部:

  個々に公差の指示がない形体に対する幾何公差

    JIS B 0419

 

序文 すべての機械部品の形体は、常に寸法及び幾何形状をもっている。寸法の偏差及

び幾何特性(形状、姿勢及び位置)の偏差がある限界を超えると、部品の機能を損なう

ので、それらの偏差の制限を必要とする。

 図面上の公差表示は、すべての形体の寸法と幾何特性の要素を確実に規制するために

完全でなければならない。すなわち、工場又は検査部門において、採否判定が暗黙の了

解のもとに任されることがないようにしなければならない。

 寸法及び幾何特性に対する普通公差の使用によって、この必要条件を満たしているこ

とを確認する業務を簡単にすることができる。

 

1. 適用範囲 この規格は、図面指示を簡単にすることを意図し、個々に幾何公差指示

示がない形体を規制するための三つの公差等級の普通幾何公差(general geometrical

tolerance)  について規定する。

 この規格は、主として除去加工(removal of material) によって製作した形体に適用

する。他の加工方法によって製作した形体にこれを適用することができるが、通常の工

場で得られる加工精度がこの規格に規定された普通幾何公差内にあるかどうかについて

確認することが必要である。

 

2. 一般事項 公差等級を選ぶ場合、個々の工場で通常に得られる加工精度を考慮しな

ければならない。個々の形体に対して、より小さな公差が要求される場合、又はより大

きな公差が許容され、かつ、それがより経済的である場合には、そのような公差を  ISO

1101  によって、直接指示するのがよい(附属書A.2参照)。

  参考 ISO  1101  の規定内容は、JIS  B  0021  (幾何公差の図示方法)と同等である。

 この規格が6.に従って図面又は関連文書に引用されるときに、この規格による普通幾

何公差を適用する。この普通幾何公差は、個々に規格公差が指示されていない形体に適用する。

 普通幾何公差は、円筒度、線の輪郭度、面の輪郭度、傾斜度、同軸度、位置度及び全

振れを除くすべての幾何特性に適用する。

 いずれにしても、この規格による普通幾何公差は、JIS  B  0024  による公差表示方式

の基本原則が使用され、図面上に指示されたときに用いる(附属書B.1参照)。

 

3. 引用規格 本文省略

  規格4項目 備考2項目 省略

 

4. 用語の定義 この規格の目的に対して、幾何公差の用語の定義は、ISO  1101  及び

ISO  5459  による。

  備考 ISO  1101  及び  ISO  5459  の規定内容は、それぞれ  JIS  B  0021  及び 

                  JIS  B  0022  (幾何公差のためのデータム)と同等である。

 

5. 普通幾何公差 (附属書B.1参照)。

5.1 単独形体に対する普通公差

5.1.1 真直度及び平面度 真直度及び平面度の普通公差は、表1による。公差をこ

の表から選ぶときには、真直度は該当する線の長さを、平面度は長方形の場合には長い

ほうの辺の長さを、円形の場合には直径をそれぞれ基準とする。

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5.1.2 真円度 真円度の普通公差は直径の寸法公差の値に等しくとるが、表4の半

径方向の円周振れ公差の値を超えてはならない(附属書B.2の例参照)。

5.1.3 円筒度 円筒度の普通公差は、規定しない。

      備考1.   円筒度は、三つの構成要素、すなわち、真円度、真直度及び相対向  

          する母線の平行度からなる。これらの構成要素のそれぞれは、個々

          に指示した公差又はその普通公差によって規制される。

                        2. 機能的理由から、円筒度が真円度、真直度及び平行度の普通公差の

                               複合効果(附属書B.3参照)よりも小さくなければならない場合に

          は、ISO  1101  によって、個々に円筒度公差を対象とする形体に指 

          示するのが良い。

                                場合によっては、(例えば、はめあいの場合には)、包絡の条件  

          Ⓔの指示が適切である。

5.2 関連形体に対する普通公差

5.2.1 一般事項 5.2.25.2.6に規定する公差は、互いに関連する形体で、幾

何公差が個々に指示されていないすべての形体に適用する。

5.2.2 平行度 平行度の普通公差は、寸法公差と平面度公差・真直度公差とのいず

れか大きいほうの値に等しくとる。二つの形体のうち長いほうをデータムとする。それ

らの形体が等しい呼び長さの場合には、いずれの形体をデータムとしてもよい(附属書

B.4参照)。

5.2.3 直角度 直角度の普通公差は、表2による。直角を形成する二辺のうち長い

方の辺をデータムとする。二つの辺が等しい呼び長さの場合には、いずれの辺をデータ

ムとしてもよい。

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5.2.4 対称度 対称度の普通公差は、表3による。二つの形体のうち長いほうをデ

ータムとする。これらの形体が等しい呼び長さの場合には、いずれの形体をデータムと

してもよい。

      備考 対称度の普通公差は、次の場合に適用する(附属書B.5の例参照)。

         ・少なくとも二つの形体の一つが中心平面をもつとき。

         ・二つの形体の軸線が互いに直角であるとき。

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5.2.5 同軸度 同軸度の普通公差は、規定しない。 

      備考 同軸度は、半径方向の円周振れが同軸度と真円度からなるので、極端

            な場合には、表4に示す円周振れ公差の値と同じ大きさでよい。

5.2.6 円周振れ 円周振れ(半径方向、軸方向及び斜め法線方向)の普通公差は、

表4による。

 円周振れの普通公差に対しては、図面上に支持面が指定されている場合には、その面

をデータムとする。支持面が指定されていない場合には、半径方向の円周振れに対し

て、二つの形体のうち長いほうをデータムとする。二つの形体の呼び長さが等しい場合

には、いずれの形体をデータムとしてもよい。

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6. 図面上の指示

6.1 この規格による普通公差を、JIS  B  0405  による普通公差とともに適用する場合

には、次の事項を表題欄の中又はその付近に指示する。

 ) "JIS  B  0419

 ) JIS  B  0405  による公差等級 

 ) この規格による公差等級

   例 JIS  B  0419-mK

   参考 ISO  2768-2  では、"JIS  B  0419"を"ISO  2768 "と表示している。

 この場合、暗示されてはいるが、角度数値が指示されていない直角(90°)に対して

は、JIS  B  0405  による角度寸法に対する普通公差は適用しない。

6.2 普通寸法公差(公差等級  m  )を適用しない場合には、図面上に指示する表示か

らその記号を除く。

   例 JIS  B  0419-K

6.3 すべての単一サイズ形体 ^{1)} (feature  of  size) に包絡の条件Ⓔを適用する場合には、

6.1に規定した表示に記号"E"を追加する。

   例 JIS  B  0419-K

   備考 包絡の条件Ⓔは、形体の寸法公差よりも大きい真直度公差を個々に指示し

      た形体、例えば、素形材  (stock  material ) には適用できない。

7. 採否 特に明示した場合を除いて、普通幾何公差を超えた工作物でも、工作物の機

能が損なわれない場合には、自動的に不採用としてはならない(附属書A.4参照)。

 

1) この規格では、単一のサイズ形体は、一つの円筒面又は平行二平面からなるもの

とする。

 

 

 附属書A 幾何特性に対する普通公差表示方式の背景にある概念

       (参考

A.1 普通公差は、本体6.に基づき、この規格を引用することによって、図面上に指

示するのがよい。

 普通公差の値は、工場の通常の加工精度の程度に対応したものであり、適切な公差等

級を選び、図面上に指示される。

A.2 工場の通常の加工精度に対応する公差値を超えて公差を大きくしても、通常、生

産の経済性における利益は得られない。いずれにしても、工場の機械及び普通の技能に

よれば、通常、大きな偏差をもつ形体を製造することはない。例えば、JIS  B  0419-

mH  に等しいか、またはそれより良い、通常の加工精度をもつ工場で製造した長さ

80mmで、直径25 mm ± 0.1 mmの形体は、幾何偏差が真円度に対しては0.1mm以内

に、母線の真直度に対しては  0.1  mm以内によく入っている(これらの数値は、この規

格から採用している)。より大きな公差を指示したとしても、その特定の工場に利益を

もたらすことはない。

 しかし、機能的理由によって、形体に"普通公差"よりも小さい公差値を要求する場

合には、その特定の形体に対して、個々に隣接して、より小さな公差を指示する。この

種の公差は、普通公差の適用範囲外である。

 形体の機能が普通公差の値に等しいか、またはそれより大きい幾何公差を許容する場

合には、公差を個々に指示しないで、本体6.に規定したように図面上に明示するのがよ

い。この種の公差は、普通幾何公差方式の概念を最大限に使用できる。

 機能が普通公差よりも大きな公差を許容し、かつ、より大きな公差が生産上の経済性

をもたらす場合には、"規則の例外"がある。これらの特別な場合には、より大きな幾

何公差をその特定の形体に隣接して個々に指示するのがよい。例えば、大きい直径で薄

いリングの真円度公差がその例である。

A.3 普通幾何公差の適用には、次の利点がある。

 )図面が容易に読め、情報伝達が図面の使用者に、より効果的になる。 

 )製図者は、機能が普通公差と等しいか、又はそれより大きい公差を許容すること

   だけを知れば十分であるので、詳細な公差の算定を避けることによって時間を節

   約できる。

 )図面は、どの形体が通常の工程能力(normal  process  capability )  によって生産

   できるかを容易に指示でき、それはまた、検査水準を下げることによって品質管

   理業務を助ける。

 )個々に指示した幾何公差をもつ残りの形体は、大部分はその機能上相対的に小さ

   い公差が要求され、それゆえ製造において特別な努力が要求される形体を規制す

   るものである。これは製造計画に役立ち、検査要求事項を解析する際に品質管理

   業務に役立つものである。

 )発注及び受注契約の技術者は、契約が成立する前に"工場の通常の加工精度"が

   分かるので、容易に注文を取り決めることができる。これはまた、図面が完全で

   あることを期待しているから、受渡当事者間の引き渡しにおいて、争いを避ける

   ことができる。

 これらの利点は、普通公差を超えないという十分な信頼性があるとき、すなわち、特

定の工場の通常の加工精度が図面上に指示された普通公差に等しいか、またはそれより

加工精度が良いときにだけ得られる。

 そのためには、工場では次のことを行うのがよい。

 ・測定によって、工場の通常の加工精度をつかむ。

 ・普通公差が工場の通常の加工精度に等しいか、又はそれより公差の大きい図面だけ

  を受け入れる。

 ・工場の通常の加工精度が低下していないことを抜取りによって調べておく。

 すべての不確定さ及び思い違いがある、漠然とした"良い技能"(good 

workmanship)  を頼みにすることは、普通幾何公差の概念によって、もはや不要にな

る。普通幾何公差は、"良い技能"が要求される精度を明らかにしている。

A.4 機能によって許容される公差は、普通公差よりも大きいことがしばしばある。そ

のため、工作物のいずれかの形体で普通公差を(ときおり)超えても、部品の機能が必

ずしも損なわれるとは限らない。普通公差から逸脱し、機能を損なうときだけ、その工

作物を不採用にする。

 

 

     附属書B 追加情報参考)

B.1 普通幾何公差(本体5.参照)

 独立の原則(JIS  B  0024  参照)によって、普通幾何公差は工作物の形体の個々の実

寸法とは関係なく適用する。したがって、普通幾何公差は形体がどこにおいても、その

最大実体寸法にあるときでも用いてよい(図B.1参照)。

 包絡の条件Ⓔが形体に個々に指示されるか、本体6.による指示方法によって、すべて

のサイズ形体に一括して指示される場合には、この要求にも従うのがよい。

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B.2 真円度(本体5.1.2参照)ー適用例
   例1.図B.2参照)

 直径の寸法許容差を図面に直接指示する。真円度に関する普通公差は、直径公差の値

に等しい。

   例2.図B.2参照)

 JIS  B  0419-mKという指示による普通公差を適用する。25mmの直径に対する許容

差は ± 0.2mmである。この許容差から、公差は本体表4の値 0.2mmよりも大きい値 

0.4 mmになる。したがって、その値 0.2mm を真円度公差に対して適用する。

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B.3 円筒度(本体5.1.3備考2.参照)

 真円度、真直度及び平行度の普通公差の複合効果は、寸効公差によるある制限がある

ので、幾何学的理由のため三つの公差の合計よりも小さい。しかし、包絡の条件Ⓔ又は

個々の円筒度公差のいずれを指示するかを決めるために、簡単化のために三つの公差の

合計を考慮に入れることができる。

B.4 平行度(本体5.2.2参照)

 形体の偏差の形によって、平行度は寸法公差の値によって制限されるか(図B.3

照)、又は真直度交差若しくは平面度公差の値によって制限される(図B.4参照)。

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B.5 対称度(本体5.2.4参照)-

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B.6 図面例 

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備考1. 細い二点鎖線(枠又は円)で囲んで示した公差は、普通公差である。これらの

    公差の値は、JIS  B  0419-mH に等しいか、またはそれより良い通常の加工精

    度を持つ工場で機械加工することによって自動的に満足され、したがって、一

    般には検査は要求されない。

  2. ある公差は同じ形体の別の種類の偏差も制限する(例えば、直角度公差が真直

    度も制限する)ので、すべての普通公差が上記の図面の説明の中に示されてい

    るわけではない。


※ この規格の概念は、前出、個々に公差の指示がない長さ寸法及び角度寸法に対する

 JIS  B  0415  と同じである。

 したがって、その頁のコメントがそのままこの規格にも当てはまる。

 公差を超えた場合の扱いに対しても全く同じことであるので、その項目を参照願いま

す。

 

 付け加えるならば、以下のことか。

 普通公差の公差等級を選ぶ場合、規格では、本文や附属書にあるように工場の通常の

加工精度を指示することになるが、一般には、工場の加工精度よりは機能上の理由によ

り公差等級を決める。

 機能により必要な公差等級が決まり、そのことによりどのような加工をするかが決ま

る。発注先の工場の加工精度レベルにより、図面の公差等級を変えることなどはまった

くない。