JISによらない機械製図

JISの機械製図に規定されていない描き方の説明と、偏見的な解説をしています。

製図―幾何公差表示方式―最大実体公差方式及び最小実体公差方式(1)

   製図―幾何公差表示方式―最大実体公差方式

        JIS B 0023

 

 この規格は、設計と絡んでいる。一般に製図は、製図の基礎といわれるものか 

 ら入っていくのだが、この規格は、基礎の段階は超えている内容となっている。

  したがってこの最大実体公差方式については、様々な方が解説されているのでそれ

 らを参考にしてもらうとして、ここでは、このブログのタイトルの"JISによらな

 い"ことを念頭に置いて、この規格をどこまで理解しておくべきか、どの程度に適用

 していくのかを述べる。

  

    第1部 最大実体公差方式

0. 序文

0.1 二つのフランジのボルト穴とそれらを締め付けるボルトとのように、部品の組立

は、互いにはめ合わされる形体の実寸法と実際の幾何偏差との間の関係に依存する。

 組付ける形体のそれぞれがその最大実体寸法(例えば、最大許容限界寸法の軸及び最

小許容限界寸法の穴)であり、かつ、それらの幾何偏差(例えば、位置偏差)がゼロの

ときに、組立すきまは最大になる。

 以上から、はまり合う部品の実寸法が両許容限界寸法内で、それらの最大実体寸法に

ない場合には、指示した幾何公差を増加させても組み立てに支障をきたすことはない。

 これを"最大実体公差方式"といい、記号Ⓜによって図面上に指示する。

 この規格の中の図は、最大実体公差方式の理解を助けるためにだけ示すものであり、

寸法及び公差の値は、説明の目的のためにだけ示している。

 さらに、簡略化のために、図示例は単純形状を用いている。

0.2 この規格のすべての図は、統一するために、第三角法で示す。

 参考 二項目省略

 

 冒頭からいかにも規格という文章が出てくる。この規格は、ISO規格を翻訳した

 ものであり、また、規格文として、別な解釈をされないようにするには、このような

 表現になってしまうのだろうが、理解するには、はなはだ厄介なものである。

  以前にも述べたが、易しい言葉でわかりやすいことを優先に書いてもらいたいもの

 である。

  この序文についても、具体的に寸法を示して解説しているものがあるので、理解す

 るにはそちらを参考にしてください。

  以下規格文の掲載を進めます。

 

 

1. 適用範囲 この規格は、最大実体公差方式及びその適用について規定する。

 最大実体公差方式の使用は、寸法公差と幾何公差とが相互に依存する部品同士の組付

けを妨げることなく、製造を容易にすることができる。

  備考 単独形体に用いる包絡の条件(5.2.2参照)は、記号Ⓔによって指示して

     も(JIS  B  0024参照)、包絡の条件を規定する適切な国家規格を引用して指

     示してもよい。

 

 この規格の厄介なところは、備考としてではあるが、包絡の条件とか、それを規定

 する国家規格とか、その項目を、見なくてはならないところがあることであろうか。

 ここではその項目のところで説明するようになります。

 

2. 引用規格

   省略

  参考 三項目省略

  備考 二項目省略

 

3. 定義

3.1 局部実寸法 形体の任意の断面における個々の距離、すなわち、任意の相対する

2点間で測定した寸法[図1図12() 及び図13() 参照]。

3.2 はまりあう寸法

3.2.1 外側形体のはまりあう寸法 形体の表面の最も高い点で接触して、その形体

に外接する最小の完全形体の寸法。

    備考 例えば、表面の最も高い点に接触する、完全形状の最小円筒の寸法、又

       は完全形状の二つの平行平面間の最短距離 (図1参照) 。

3.2.2 内側形体のはまりあう寸法 形体の表面の最も高い点で接触して、その形体

に内接する最大の完全形体の寸法 (参考図1参照) 。

    備考 例えば、表面の最も高い点に接触する、完全形状の最大円筒の寸法、又

       は完全形状の二つの平行平面間の最長距離 (図1及び参考図1参照) 。

3.3 最大実体状態 (maximum material condition)  (MMC) 形体のどこにおいても、そ

の形体の実体が最大となるような許容限界寸法、例えば、最小の穴径、最大の軸径をも

つ形体の状態 (図1参照) 。

    備考 形体の軸線は、真直である必要はない。

3.4 最大実体寸法 (maximum material size)  (MMS) 形体の最大実体状態を決める寸法 (図1参照) 。

3.5 最小実体状態 (least material condition) (LMC)    形体のどこにおいても、その形

体の実体が最小となるような許容限界寸法、例えば、最大の穴径、最小の軸径をもつ形

体の状態(図1参照)。

3.6 最小実体寸法 (least material size) (LMC) 形体の最小実体状態を決める寸法 (

参照) 。

3.7 実効状態 (virtual condition) (VC) 図面指示によってその形体に許容される完全

形状の限界であり、この状態は、最大実体寸法と幾何公差との総合効果によって生じ

る。

 最大実体公差方式を適用する場合には、記号Ⓜを付記した幾何公差にだけ実効状態を

考慮しなければならない(図1参照)。

   参考 穴については、参考図1を参照。

   備考 実効状態は、機能ゲージ (functional gauge) の理論的な設計寸法を表す。

 

※ 機能ゲージは、前頁の幾何公差のためのデータム JIS  B  0022  の7 形体グルー

 プをデータムとする指示で、備考として"六つの穴の位置度公差は、機能ゲージを用

 いて検査するとよい"とあるなど、よく規格の中に出てくる。しかし、機能ゲージの

 規格や、定義などは見当たらない。ましてや、設計方法などの説明などはないような

 のではなはだ不親切である。

  機能ゲージに関しても多くの方が解説しているのでそちらを参考にしていただきた

 い。

 

 

3.8 実効寸法 (VS) 形体の実効状態を決める寸法。

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4. 最大実体公差方式
4.1 一般 最大実体公差方式は、公差付き形体に対する実効状態を越えないことを、

そして、もしデータムに対しても指示されるならば、データム形体に対する完全形状の

最大実体状態を越えないことを要求する公差方式である。

 この公差方式は、軸線または中心平面に適用し、寸法と幾何公差との間の相互依存関

係を考慮している。この公差方式を適用する場合には、記号Ⓜを指示する。

4.2 公差付き形体への最大実体公差方式の適用 最大実体公差方式を公差付き形体に

適用する場合には、対象とする公差付き形体が両許容限界寸法内でその最大実体状態か

ら離れていると、形体が実行状態を越えないという条件で、指示した幾何公差を増加さ

せることができる。

4.3 データム形体への最大実体公差方式の適用 最大実体公差方式をデータム形体に

適用する場合には、データム軸直線又は中心平面は、データム形体が両許容限界寸法内

で最大実体状態から離れていると、公差付き形体に関連して浮動(floating)してもよい。

浮動の値は、その最大実態寸法とデータム形体のはまりあう寸法との差に等しい[図27()及び図27(C)参照]

   備考 データム形体がその最大実体寸法から離れた寸法分は、関連する公差付き

      形体の公差に加えない。

5. 最大実体公差方式の適用 設計者は、常に対象とする公差に最大実体公差方式の適

用ができるかどうかを決めなければならない。

   備考 運動学的リンク機構、歯車中心、ねじ穴、しまりばめの穴など、公差を増

      加することによって機能が損なわれる場合には、最大実体公差を適用しな

      いほうがよい。

5.1 一群の穴に対する位置度公差 最大実体公差方式は、位置度公差とともに用いる

のが最も一般的であるので、この項における説明のために位置度公差方式を用いる。

   備考 実効寸法の計算には、ピン及び穴が最大実体寸法であり、かつ、完全形状

      であると仮定する。

5.1.1 一群の四つの穴に対する位置度公差の図面指示を図2に示す。

 この穴のグループにはまり合う一群の四つの固定ピンのグループに対する位置度公差

 の図面指示を図4に示す。

 四つの穴の最小寸法はΦ8.1であり、これは最大実体寸法である。

 四つのピンの最大寸法はΦ7.9であり、これは最大実体寸法である。

5.1.2 穴及びピンの最大実体寸法の差は、8.1ー7.9=0.2である。

 穴及びピンに対する位置度公差の合計は、この差(0.2)を超えてはならない。この例に

おいて、この公差は、穴及びピンに等しく配分される。すなわち、穴に対する位置度公

差はΦ0.1である(図4参照)。

 Φ0.1の公差域は、それらの理論的に正確な位置に置かれる(図3及び図5参照)。

 位置度公差の増加は、個々の形体の実寸法に依存するので、個々の形体で異なってよ

い。

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5.1.3 図6は、それらのすべてが最大実体寸法であり、かつ、完全形状である四つ

の穴の円筒面を示す。その軸線は、公差域内で極限の位置にある。

 図8は、最大実体寸法にある対応するピンを示す。部品の組付けが最も好ましくない

状態のもとで可能であるということが図6からわかる。

5.1.3.1 図6の穴の一つを図7に拡大して示す。軸線に対する公差域は、Φ0.1であ

る。Φ8.1のすべての円の軸線は、Φ0.1の公差域の極限の位置にあり、Φ8の内接する包

絡円筒を形成している。このΦ8に内接する包絡円筒は、理論的に正確な位置にあり、穴

の表面に対して機能上の境界を形成する。

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5.1.3.2 図8のピンの一つを図9に拡大して示す。軸線に対する公差域は、Φ0.1で

ある。ピンの最大実体寸法は、Φ7.9である。Φ7.9のすべての円筒の軸線は、Φ0.1の公差

域の極限の位置にあり、Φ8の外接する包絡円筒を形成している。このΦ8の外接する包

絡円筒は、ピンの実効状態である。

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5.1.4 穴の寸法がその最大実体寸法よりも大きいとき、ピンの寸法がその最大実体

寸法よりも小さいときに生じるすきまは、ピン・穴の位置度公差を増やすために使用さ

れる。ピンと穴との間にすき間が増加し、個々の形体の実寸法によって、位置度公差の

増加分はそれぞれ異なってもよい。

 極限状態は、穴が最小実体寸法、すなわち、Φ8.2のときである。図10は、穴の表面が

実効寸法の円筒を越えなければ、その穴の軸線はΦ0.2の公差域内にあればよいことを示

している。

 図11は、ピンに関して同様の内容を示している。ピンが最小実体寸法、すなわち、

Φ7.8であるときに、位置度公差の公差域の直径は、Φ0.2である。

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5.1.5 幾何公差の増加は、はまり合う相手部品に関係なく組みつけの一つの部品に

対して適用される。はまり合う相手部品が組付けに最も不利な方向に、公差の極限の値

で製作されたときでも、常に組付けは可能である。なぜならば、はまり合う双方の部品

のいずれも寸法と幾何公差との複合した公差を超えない、すなわち、それらの実効状態

を越えないからである。

5.2 データム平面に関連する軸の直角度公差

5.2.1 図12)の公差付き形体は、図12)に示す状態を満たさなくてはなら

ない。すなわち、形体は実効状態、Φ20.2(Φ20+0.2)を超えてはならない。さらに、

すべての局部実寸法はΦ19.9とΦ20との間にあり、母線又は軸線の真直度は局部実寸法

に応じて、0.2・・・0.3を超えることはできない。例えば、すべての局部実寸法がΦ20であ

れば、真直度は0.2[図12)参照]、すべての局部実寸法がΦ19.9であれば、真直度

は0.3[図12)参照]である。

 

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5.2.2 図13)において、Ⓜとともに追加の要求事項Ⓔ(JIS  B  0024を参照)

は、その形体が最大実体寸法Φ20[図13)]で完全形状の包絡面内になければならな

いことを要求している。この例において、局部実寸法は、Φ19.9とΦ20との間になけれ

ばならず、かつ、真直度と真円度との複合された効果によって得られた形体は包絡の条

件を侵害することはない。例えば、母線又は軸線の真直度は、局部実寸法に応じて、

0・・・0.1を超えることはできない。しかしながら、直角度は、Ⓜ指示があるから、形体の

局部実寸法がΦ19.9であるときには[図13)参照]、0.3(実効寸法=Φ20.2)に増

加させてもよい[図13)参照]。

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 包絡の条件は、JIS  Z  8114 製図用語 番号 3601 で 「円筒面や平行二平面

 からなる単独形体の実体が、最大実体寸法をもつ完全形体の包絡面を超えてはならな

 いという条件。」と定義されている。

  これもわかりずらい内容である。まず包絡であるが、専門用語であるので一般の辞

 書には出ていないが、包み、まとう、あるいは包みつながる意味であろうか。完全形

 体で包み込める、くらいの表現でいいと思うのだが。

 

  さて、最大実体公差方式であるが、適用させる場合、条件が合えば、幾何公差を増

 やすことができるというものであるが、実際のところはどうであろうか。

  まず適用できるものが、5.1にあるように、ほぼ位置度公差である。さらに測定す

 るものとなると、三次元測定機となる。JISでは機能ゲージが推奨されているが、専用

 ゲージを設計製作しなくてはならない。適用させるのは、特別な場合と考えてよい。

  さらに、5.の備考に示されているように、適用しないほうが良いものがある。

 適用させるかどうかは、5.にあるように設計者の仕事となるが、生半可な理解で適用

 させると後々問題になる。

  したがってこの項目は、極論すれば、理解しておく必要はないし、適用させなくて 

 も何の問題もないだろう、というのが一般の人の本音であろうか。

  以下次頁に続きます。