この頁では、今まで公開したJIS規格の機械製図の中で、規格には関係しない話を
まとめてみました。一部編集してあります。
寸法公差及びはめあいの方式―
第1部:公差,寸法差及びはめあいの基礎 の頁
この規格の中で混同されて使用されているのは、公差と許容差あるいは許容寸法であ
ろうか。よく公差は、±0.02などといった言葉を耳にするが、この規格で述べられてい
るように、公差は絶対値であるので、この場合は公差は 0.04 となるのが正しい。
上の許容値が+0.02 で、下の許容値が-0.02 が正確な表し方とわかっていても、つ
い簡単に公差と言ってしまうことが多いのは致し方ないか。
上がいくつ、下がいくつ、と話していると、他の人から、「なに、血圧の話です
か。」と聞かれてしまう。
機械加工部品のエッジ品質及びその等級 の頁
欠けとチッピング
欠けのほかにチッピングという語がある。JISでも切削工具などの部門で、チッ
ピングは小さい欠け、と説明されているが、欠けとチッピングの違いは規定がみあた
らない。
感覚的には、エッジに連続してあるのがチッピング、局部的にあるのが欠けで、大
きさではないように思われる。
ボイドと巣
ボイドとは気孔のこと。鋳物の中にできる気孔は〝巣゛と呼ばれ、焼結金属など一
般に金属にある小さい穴は、この言葉のほうが使われる。
なお、鋳物の巣には〝鬆゛という文字も使われ、一部の国語辞典にも載っている。
しかし、この言葉は、植物などの芯にできるスキマのことであるので、正しい使い方
でないと思われる。
製品の幾何特性仕様(GPS)ー幾何公差表示方式ー形状、姿勢、位置及び振れの公
差表示方式(1)の頁
幾何特性仕様とは、幾何特性、つまり形状、姿勢、位置などの性質を、どのように表
示するか、そのやり方である。
では、偏差と公差はどう違うのか。JISではどこかで定義されているのかもしれな
いが見当たらない。一般的には、偏差は、かたより、ばらつき、加工する場合では誤
差になるであろうか。公差は、偏差を規制するもの、あるいは規制されたものといえる
か。
定義文では、易しい言葉が使われることは少ない。簡潔に説明するためには、そうな
ってしまうのだろうが、それで理解されるのかというとそうではない。ぜひ優しい言葉
を使ってもらいたいものである。
幾何公差のためのデータム(2) の頁
※ ショウについて
今ではほとんど死語になてしまっているが、"ショウ"という言葉がある。基準、デ
ータムのことであるが、「この面をショウにして反対面を・・・・・・」などと使われていた
ので、データムよりは加工基準面の意味合いが強かったであろうか。
このショウという言葉、よく、漢字ではどう書くのだろうかと云うことになる。"
正、証、衝"などが挙げられるが、交通の要衝と使われる"衝"が肝心なところという
意味で適しているようにも思える。
漢字で表されるとなると日本古来のものだろうが、建築や木工でこのような言葉が使
われているようなことはないようである。機械加工の分野だけであるなら外国語という
ことになり、英語のShowが候補に挙げられる。しかし正や証がさしたる根拠もなしに
これです、と言い切る人がいる反面、外来語ではとする人が全くいないのは不思議なこ
とである。
ともあれ、データム、基準面がはっきりしない図面に出くわすと、つい思ってしまう
ことはどうしても「しょうがないな・・・・・・」。
製図―幾何公差表示方式―最大実体公差方式及び最小実体公差方式(1)
の頁
包絡の条件は、JIS Z 8114 製図用語 番号 3601 で 「円筒面や平行二平面
からなる単独形体の実体が、最大実体寸法をもつ完全形体の包絡面を超えてはならな
いという条件。」と定義されている。
これもわかりずらい内容である。まず包絡であるが、専門用語であるので一般の辞
書には出ていないが、包み、まとう、あるいは包みつながる意味であろうか。完全形
体で包み込める、くらいの表現でいいと思うのだが。
さて、最大実体公差方式であるが、適用させる場合、条件が合えば、幾何公差を増
やすことができるというものであるが、実際のところはどうであろうか。
まず適用できるものが、5.1にあるように、ほぼ位置度公差である。さらに測定す
る測定器となると、三次元測定機となる。JISでは機能ゲージが推奨されているが、専
用ゲージを設計製作しなくてはならない。適用させるのは、特別な場合と考えてよい。
さらに、5.の備考に示されているように、適用しないほうが良いものがある。
適用させるかどうかは、5.にあるように設計者の仕事となるが、生半可な理解で適用
させると後々問題になる。
したがってこの項目は、極論すれば、理解しておく必要はないし、適用させなくて
も何の問題もないだろう、というのが一般の人の本音であろうか。
製図―幾何公差表示方式―最大実体公差方式及び最小実体公差方式(2)
の頁
前ページでも述べたが、この規格は設計のための規格である。特別な場合にしか使用
することはないので、理解しておく必要はあまりない。一般に浸透している規格とも思
われない。
このような難解な規格が普及するのにどのくらいかかるであろうか。
まず規格が新たに制定されると、それに関した解説書などが出される。これに2,3年
はかかるであろうか。この解説書によって勉強した学生が社会人になるのにさらに数
年。この段階で普及し始めるかというとそうではなく、この人たちが指導的立場になら
ないと使われださない。指導的立場になるのは30代、40代であるから、トータルで、
15年、20年は見なくてはならない。
この規格、最大実体公差方式が制定されたのは1984年となっており、30年は過ぎてい
る。普及していてよいはずであるが。
製図―幾何公差表示方式―最大実体公差方式及び最小実体公差方式(3)
の頁
最小実体公差方式も、最大実体公差方式と同じく、多くの方が解説しているのでそ
ちらを見ていただきたい。
JISによらないを念頭に置いた感想も同様である。規格が適用できるのは、同軸度
が多いだろうし、最小実体公差方式を指示しなくても、ほとんどの場合、何の問題もな
い。
最小実体公差方式は、最大実体公差方の対極をなすものと思われがちだが、考え方は
ともかくとして、その用途は全く別なものである。名称を変えて別な規格としたほうが
良いと思えるくらいである。
用途としては規格文中にあるように、最小厚さの管理、破断防止があげられる。製品
の小型化、軽量化が検討される場合、最小実体公差方式は、必要なものとなってくるだ
ろうが、この規格を当てはめるだけが小型化の方法ではない。
最大実体公差方式、最小実体公差方式を適用して得られた幾何公差の増加分を、アメ
リカなどでは、ボーナス公差というらしい。ボーナスが得られるためには、その対価と
なった何かが必要であることは、言うまでもない。給付金のように、申請すればもらえ
るというものではない。
製図―公差表示方式の基本原則 の頁
旧規格をそのまま掲載したのは、以前紹介した、製図-幾何公差方式-最大実体公
差方式の頁の 1. 適用範囲 の備考で、JIS B 0024 参照となっているのにもかか
わらず、改定後の規格には、参照すべき項目が見当たらないからである。
この最大実体公差方式 JIS B 0023 は1996年に改訂されたままである。B 0024
が先に改訂されたのでこのようなことになっているのであろう。GPSに関する国際規格
自体が改正中でありこのようなことは、しばらく続くのではないか。
ともあれ、寸法と幾何公差は独立して適用されるが、両者を関係づける場合は、6.に
示すように、包絡の条件と最大実体公差方式がある。これらについては以前にも記載し
たように様々な方が解説しているので、そちらをご覧になってください。
なお、包絡の条件を規定する記号ⒺのEは、封筒を意味する envelope から来てい
るらしい。
規格中の名称は、できるだけ日本語を使ってもらいたいが、幾何特性仕様をGPSと
するなら、包絡の条件は、エンべロープ コンディションとでもしたほうがイメージが
湧きそう。ただし、JIS Z 8114 製図-製図用語 での 包絡の条件の対応英語は、
envelope requirement である。